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黒澤明監督が残したメッセージ「夢」 [映画・TV]

「夢」という映画は、1990年に公開されました。
もう20年以上も前のことです。
すっかり忘れていました。

原子力発電への訴えかけがあり、また、本年の災害を予見していたかのような内容だ、と、つい先日、人から聞かされました。

私の記憶のなかには、子供のころに誰もが感じたであろうちょっとした恐怖である狐の嫁入りや、動き出すお雛様が登場するシーン、ゴッホの絵のなかに入っていく美しいシーンくらいしか残っておらず、そんな重要なメッセージがあっただろうか・・・と実は思い出せませんでした。

8つのエピソードから成っており、それぞれが、「こんな夢を見た」で始まります。

問題の原発へのメッセージは、最後の3つ、6,7,8で描かれています。

私の手元には、なんということでしょう、当時、友人がレーザーディスクなるものからビデオテープにダビングしてくれたものがありました。アニメの絵コンテや監督の仕事をしていたその友人は、15年ほど前に、病気で亡くなりました。

何気にビデオテープをデッキに入れますと、ちょうど6つ目のエピソードでした。
見てみますと、記憶が甦ってきました。
まるで、ここから見るんだよ、とでも言うように、セットされていたビデオテープ。
・・・いいえ、そんな神秘的なことではなく、私の記憶が薄かったということは、そのあとの話にはあまり興味がなく、そこで止めていたのでしょう。
しかし、そういった成り行きも全て含めまして、シンクロニシティ、というのです。

第6エピソードでは、まず、人々が逃げ惑っています。富士山が爆発しています。
寺尾聰演じる男が何があったのか、と人を掻き分けます。
子供を連れた女(根岸季衣)がうずくまっています。
男が、富士山が爆発したのか、大変だ、と言うと、女が、もっと大変だよ、あんた知らないの、発電所が爆発したんだ、原子力の、と叫びます。
そこへ背広を着た男(井川比佐志)がやってきて、発電所の原子炉は6つある、それが次から次へと爆発を起こしている、と冷静に応じます。
逃げ出す女。
狭い日本だ、逃げ場所はないよ、という背広の男。
でも逃げなきゃしょうがない、という女。
群集がいなくなった海岸。
大勢の人たちはどこへ?と尋ねる男。
みんな海の底さ、と背広の男。
逃げているイルカ。
イルカはいいねぇ、泳げるからね、と女。
どっちみち同じ事、放射能に追いつかれるのは時間の問題だよ、と言って、背広の男が説明する。来たよ。あの赤いのは、プルトニウム239。あれを吸い込むと1000万分の1グラムでもガンになる。黄色いのはストロンチウム90。あれが身体のなかに入ると、骨髄にたまり白血病になる。紫色のはセシウム137。染色線(体?)に集まり、遺伝子が突然変異を起こす。どんな子供が生まれるかわからない。人間はアホだ。放射能は目に見えないから危険だといって、放射性物質の着色技術を開発したってどうにもならない。知らずに殺されるか、知ってて殺されるか、それだけだ。
子供を二人抱えてうろたえる女。
じゃ、お先に、と背広の男が海に飛び込もうとする。
男が、放射能で即死することはないっていうじゃないか、と止める。
ぐじぐじ殺されるより、ひと思いに死んだほうがいい。
そりゃあ大人は十分生きたんだから、死んだっていいよ。この子達はまだいくらも生きちゃいないんだよ、と女。
放射能に侵されて死ぬのを待ってるなんて、生きてることにならないよ、と背広の男。
でもね、原発は安全だ、危険なのは操作のミスで、原発そのものに危険はない、絶対ミスはおかさないから問題はない、ってぬかしたやつら許せない。あいつらみんな縛り首にしなくちゃ、死んだって死に切れないよ、と叫ぶ女。
だいじょうぶ。それは放射能がちゃんとやってくれますよ。・・・すいません。僕もその縛り首の仲間の一人でした、と言う背広の男。
唖然として背広の男を見る、男と子供たちの母親。
背広の男は海へ。
放射能が二人に襲い掛かる。

第7エピソードでは、放射能で汚染された荒涼とした世界。角が生えてしまった男(いかりや長介)に、男(寺尾)が出会う。
この辺りは一面の花畑だった。それを水爆やミサイルが、こんな砂漠にしてしまった、ところが最近、その死の灰のつもった地面から不思議な花が咲き始めた、という角の生えた男。
巨大なたんぽぽ。
ばら撒かれた放射能が花や人間を壊してしまった。
地球を猛毒物質のはきだめにしてしまった。今この地球に、まともな自然はどこにもない。鳥や獣や魚もいない。いつだったか、顔の二つあるうさぎと、目玉がひとつの鳥と、毛の生えた魚を見た、と角の男。
食べ物はなく、共食いをして生きている。弱いやつから食われる。そろそろ俺の番。鬼にも階級がある。俺みたいな一本角は、二本も三本も生えている鬼に食われる、と角の男は話す。
人間だったとき、権力を握っていた人たちが、鬼になってものさばっている。
のさばるだけのさばればいい。ぞっとするざまで生きていくのは、死ぬよりつらい。鬼の因果は死ねないこと。自分の罪に責めさいなまれて、永劫に生きていかなければならない。
酪農をやっていたというこの角の生えた男、鬼。値が下がったからといって、タンクローリーの牛乳を何度も川に捨てた。たまねぎやじゃかいもやきゃべつをブルドーザーで踏み潰した。ばかなことをした、と泣く。
夕方になると、名うての鬼どもが、角の痛みに苦しんで声を上げるという。
谷底で苦しむ鬼たち。
お前は帰れ、と鬼は男を追い返す。

第7エピソードの世界は、緑豊かな平和な村。美しい水面。水車。鳥たちの鳴き声。花を摘む子供たち。
男は川辺で作業をする一人の老人(笠智衆)に声を掛ける。
村の名前はない、よその人たちは、水車村、と呼んでいる、とのこと。
電気はひいてないのですか?
そんなものはいらない。人間は、便利なものに弱い。便利なものほどいいものだと思っている。本当にいい物を捨ててしまう。
灯りはどうするんです?
蝋燭もあれば種油もある。
夜は暗くないですか?
暗いのが夜だ。夜まで昼のように明るくては、こまる。星も見えないような明るい夜なんていらない。
田んぼがあるようですが、耕運機やトラクラーもないようですね。
そんなものはいらない。牛もおるし、馬もおる。
燃料には何を使っているんです?
おもに、薪を使う。生きている木を切るのはかわいそうだ。けっこう枯れる木もあるから、おもにそれを薪にして使っておる。木を炭にして使っておる。牛の糞もいい燃料になる。
できるだけ、昔のように、自然な暮らし方をするようにしている、という老人。近頃の人間は、自分たちが自然の一部だということを忘れている。学者は頭がいいのかもしれないが、自然の深い心がさっぱり分からないものが多い。その連中は、人間を不幸せにするようなものを発明して得意になっている。困ったことに大多数の人間たちは、そのバカな発明を奇跡のようにありがたがって、その前に額づいている。自然が失われ、自分たちも滅んでいくことに気がつかない。まず人間に一番大切なのは、いい空気や自然や水、それを作り出す木や草。それが、汚されほうだい。失われほうだい。汚された空気や水は、人間の心まで汚してしまう。
お祭りがあるんですか、という男の質問に、本来葬式はめでたいもの、と説明する老人。
老人は、これから、その葬式に出るという。死んだ人は、老人の初恋の人。
男は、美しい川の上の橋を渡って行く。

ざっと書かせていただきました。
youtubeにも動画がアップされているようですので、ぜひ、本物をご覧ください。

当時は、原発へのマイナスの関心が次第に薄れていっているような雰囲気さえある時期だったかもしれません。チェルノブイリのあとではありましたが、日本は、政治や電力会社、誘致する地方自治体、マスコミ、などによる情報統制、やらせ、洗脳によって、ほとんどの人たちが、2011年3月11日のあの時まで、すっかり騙されるその道のりの真っ只中にいたのかもしれません。
そんななかに、意志を貫いて危険性を訴え続ける心ある学者や、ニュースにも取り上げてくれないが懸命に反対運動をする市民たち、がいたのも事実です。

第6エピソードは、本当にもうそのまま。今の状況に当て嵌まります。
当時は、津波による巨大な被害よりも、富士山の爆発、ということにスポットが当たっていたのですね。

第7エピソードは、汚染のあと、ですが、たんぽぽの場面には驚きました。10年ほど前でしたか、奇形たんぽぽ、というのが、報道番組で紹介されていたのを記憶しています。
道を誤ってしまった権力者たちは、とめどなく苦しむのだ、と言っているのでしょうが、しかし、ともに生きた人々も、また、同時に苦しまなければならない、という皮肉。世界を社会を選択する責任は、あらゆる国民にあるのだ、ということではないでしょうか。

第8エピソードは、ほっとする場面です。
せせらぎや、樹木の緑、色とりどりの花々、そして、鳥たちのさえずりが、いかに、穏やかで平和であるのかが、心の底に染みてきます。
本当の豊かさとは、こういった風景です。
>汚された空気や水は、人間の心まで汚してしまう。
という老人の言葉がありましたが、人の荒んだ心が、自然を破壊し、地球に陰りを作っていく、というのが、その悪循環の始まりであることは、自明の理です。

これ以上の言葉は不要でしょう。
DVDなどがあれば、実際に、映画として、ご覧になることをお勧めします。

巨匠、天才、というのが、予言的メッセージを残すものであるのは、常、なのかもしれませんね。その時は、誰も、真剣に取り合わなくとも。。。

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